社外の方とお話ししていて「エアーサーフさんって、何の会社ですか?」と問われたとき、いちばん正確に答えるなら、こうです。
振動を測ることで、装置を作っている会社です
物体の動きには、必ず振動が伴います。回転機械なら回転次数の振動、往復機械なら往復周期の振動、流体機械なら脈動。装置を設計したことのある方なら、これは当たり前のことです。しかし「振動が、装置のすべてを語っている」と言われると、少し違和感を持つ方もいるかもしれません。
振動は、装置の「自白」である
私たちが扱うどんな動力装置も、組み上げて電源を入れると、振動を発します。この振動は、装置自身が「今、私はこういう状態です」と自白している声のようなものです。
- 特定の回転数で異常なピークが立てば、共振点を踏んでいる
- 高調波が想定より大きければ、駆動制御が乱れている
- ある時間帯から振動レベルが上がっていれば、ベアリングが摩耗を始めている
- 特定方向の振動だけ大きければ、芯出しがズレている
これらは、装置を分解しなくても、設置面に加速度センサーを 1 個貼り付ければ全部わかります。30 秒の測定で。
「振動を測る」という地味な作業は、装置の現状診断と、寿命予測と、設計改善の方向性 ── このすべてを同時に教えてくれる、最強のセンシングなのです。
計測しないと、設計は信じられない
私たち株式会社エアーサーフでは、設計の判断を ほぼすべて測定で裏付ける ことにしています。
たとえば高効率モータの試作機が完成した時、効率の数字を社内で使う前に、最低 3 通りの方法で測ります。
- 入力電力 / 出力機械動力の比として、電力計とトルクメータで直接測定
- 発熱量から逆算して、温度上昇から損失を推定
- 音響パワーレベルを測って、放射音から機械損失を推定
この 3 つの測定値が、誤差 1ー2% 以内で一致してはじめて「効率 ◯◯%」と社内で称することを許します。1 つでも食い違えば、その理由がわかるまで設計に戻ります。
これが大変かというと、大変です。1 つの試作機の効率測定だけで丸 1 日かかります。しかし、この手間を惜しんで「カタログに書ける数字」を作る会社は、信じてもらえる会社にはなれません。
「振動が出るのが当然」では、改良が止まる
レシプロ式エンジンの研究を始めた 20 年前、業界の設計教科書には「クランク機構による特性振動は、設計で完全に消すことはできない」と書かれていました。つまり「振動は出る前提」で設計するのが標準でした。
しかし振動を測れば測るほど、その「出る前提」の振動の中に、無視できない量の機械損失とエネルギー浪費が含まれていることが見えてきます。装置の寿命を縮めているのも、騒音公害を生んでいるのも、消費電力を増やしているのも── 全部、この振動です。
「仕方ない」を計測して定量化していくと、それが本当に仕方ないものなのか、それとも誰も真剣に解こうとしてこなかった問題なのかが、見えてきます。
「現場で測る」が会社の文化
私たち社内には、シンプルな決まりがあります。
「データを示せないなら、その判断には根拠がない」
会議で「これは経験上、こうすべきだと思います」という発言があれば、必ず「測定してから判断しよう」と差し戻します。経験は重要ですが、測定の前に来るものではありません。
新入社員にも、入社初週で必ずやってもらうことがあります。「社内の試作モータ 1 台を測定してください」と渡します。
何を測れば装置の状態がわかるのか── これを自分で考えるところから、エンジニアリングは始まります。これを自分で組み立てる訓練をしないと、設計判断はずっと「経験と勘」に頼ったままになります。
計測文化が、製品の信頼を作る
お客様が当社の評価機を借りて社内試験をした時、「思っていたより、データの取り方が細かいですね」と言われることがあります。それは、当社が普段やっている測定の手順を、そのままお渡ししているだけです。
製品の信頼性は、「優れた設計」だけでは作れません。設計が優れていても、それが本当に優れているかを測れる体制と文化がない会社では、優れた設計は再現できません。
結び ── 振動を聴くと、装置と話せる
私の机には、いつも何かしらの加速度センサーと小型オシロスコープが置いてあります。何をしているかというと、社内の試作機の前に立ち止まって、ふと「今、調子悪いんじゃない?」と思ったときに、その場で測れるようにするためです。経験上、装置が不調を訴え始める時、人間が気づくよりずっと早く、振動の次数成分は変化しています。
装置と話す ── これは比喩ではありません。振動という言語で、装置は確実に語っています。それを聴き取る訓練さえできれば、装置と長く付き合うことができます。
著者プロフィール
株式会社エアーサーフ 研究・開発最高責任者。動力技術の研究開発に長年従事。

